研究員メッセージ(READYFOR株式会社 松井 俊祐さん)


松井 俊祐(まつい しゅんすけ)
READYFOR株式会社
プログラム開発室 室長
認定NPO法人サービスグラント パートナー
新卒でAmazon Japan入社、経営コンサルティング等を経て、2024年に株式会社READYFORに参画。
休眠預金等活用事業を中心としたプログラム型基金の事業開発に従事。
内閣府公益等認定委員会に出向(非常勤)し、新たな公益信託制度の立ち上げにも携わる
今の活動にたどり着くまでの「転機」は何でしたか?

大きな転機は、NPOへのプロボノ活動と、半年間の育児休業です。
私は新卒の頃から、NPOや社会課題に関わりたいと考えていたわけではありません。
Amazonやコンサルティング会社などの外資系企業で働き、給料が上がり、ビジネススキルが身についていくことに、一定の手応えを感じていました。
一方で、働き続けるうちに、「このまま営利企業でより多く稼ぐことが、本当に自分のやりたいことなのだろうか」「今の仕事は、どのように社会の役に立っているのだろうか」という迷いも生まれてきました。
妻や大学時代の友人がソーシャルベンチャーやNPOで活動していたこともあり、私にとってソーシャルセクターは、以前から身近な存在でした。そうした中で、私自身もプロボノとしてNPOを支援するようになりました。
約5年間、実際に社会課題の現場に関わる中で、自分の経験やスキルが誰かの役に立っているという手応えを得られました。本業とは異なる種類の、強いやりがいと満足感がありました。
もう一つの転機は、半年間の育児休業です。
日々の仕事からいったん離れ、短期的な会社員としての成長ではなく、中長期的に自分が人生をかけて何をしたいのかを考える時間を持てました。
その中で、これまで身につけてきた経験やスキルを生かすのであれば、ソーシャルセクターの方が、自分にとって納得感のある価値を発揮できるのではないかと考えるようになりました。
そして、社会課題への関わりをプロボノにとどめず、本業にしようと決めました。
その時、迷いや悩みはありましたか?
特に大きかったのは、お金とキャリアに関する悩みです。
お金の面では、転職によって給料が大きく下がることが明らかでした。自分のやりたいことを選んだ結果、子どもの教育など、家族が将来持てる選択肢を狭めてしまうのではないかという懸念がありました。
そこで、今後子どもが増える予定がないことや、すでに住宅ローンを組めていたことなどを踏まえ、家計の中長期的なキャッシュフローを確認しました。そのうえで、まずは2〜3年間挑戦してみて、経済的に難しくなった場合には、コンサルティング業界など、再び収入を得やすい環境に戻ることもできるだろうと考えました。
最初から一生の決断として捉えるのではなく、一定期間挑戦してみるという、暫定的な意思決定をしたのです。
キャリアについては、ソーシャルセクターへの転職は、客観的に見ると「会社員としてこれ以上、上を目指さないキャリア」なのではないかという固定観念がありました。本当にこの選択が、自分のキャリアにとって最適なのかという不安はありました。
一方で、今後、大企業の新規事業などにおいても、社会課題に関する知識や現場経験を持つ人材へのニーズは高まるのではないかとも考えました。
また、現職では、営利セクターともつながりを持つ経営者や、優秀な人たちの近くで働くことができます。単にキャリアを降りるのではなく、これまでとは異なる専門性や経験を獲得する機会だと捉え直しました。
家族とは、プロボノをしていた頃や育児休業中から、キャリアに対する考え方や価値観について丁寧に話していました。転職の意向も1〜2年前から妻に伝えていたため、突然相談して反対されるようなことはありませんでした。
近所に住む義理の両親にも説明し、現在は子育ての面でもサポートしてもらっています。
自分一人の意思だけで決めるのではなく、家族と時間をかけて認識を共有できたことは、転職を決断するうえで大きかったと思います。
この仕事の「きれいごとではない部分」を、あえて挙げるなら?
シンプルに言えば、給料が市場の相場と比べて安いことです。
人生のフェーズによっては、その条件を受け入れることが難しい人もいると思います。社会課題への関心や仕事のやりがいだけで、経済的な条件を無視できるわけではありません。
また、ソーシャルセクターに行くことを、給料だけでなく仕事のレベルも下げることだと捉えている人が、時折いるように感じます。しかし、実際に第一線で働いている人たちは、能力が高く、同時に社会課題に対する強い思いを持っています。
社会課題として残っているのは、簡単なビジネスでは解決できなかった複雑な問題です。そこで価値を発揮し続けるには、自分自身も継続的に学び、研鑽を積まなければなりません。
個人的には、「給料が安い」という経済的なデメリットを理解したうえでも、それを上回るリターンを得られていると感じています。
仕事そのもののやりがいに加えて、意思を持って働いている人たちと一緒に仕事ができること、その人たちによって自分の視座やスキルを引き上げてもらえること、そして、複雑な社会課題に向き合う中で自分自身も鍛えられることが、そのリターンです。
私にとってソーシャルセクターで働くことは、単に社会のために何かをすることではありません。
自分自身にとっても、人生の中で大きく成長できる一つのフェーズになっています。
あなたにとって「ソーシャルグッド」とは、一言で言うと?
「後悔しない人生の選択をすること」です。
世の中の慣習や周囲の期待に流されるのではなく、自分自身が本当に納得できる意思決定なのかを考えること。私にとっては、それがソーシャルグッドの出発点です。
意思を持って選んだものであれば、活動する領域が営利企業であっても、ソーシャルセクターであっても構わないと思っています。どちらの領域にいるかよりも、自分は何を大切にし、何のために働くのかを自分で選んでいることの方が重要です。
そうした意思のある働き方をする人が社会の中で増えていけば、それぞれの仕事を通じて生み出される価値も、自然とソーシャルグッドにつながっていくのではないかと考えています。
